多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と糖質制限
PCOSは糖質制限食によって大幅に改善することができます。
専門知識無しの人でもだいたい分かるようにざっくり書きましたので、より詳細に調べたい方は、英語圏の記事や文献を調査しに行くことをお勧めします。
※記事末尾に参考元のリンクを掲載しています。
[2018/05/30 先方Webサイトリニューアルによりリンク先を修正]
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◆PCOSの概要
・ざっくり言うと
卵胞が嚢胞性変化を起こし、排卵しにくくなる障害。
正常な人:
卵巣内で卵細胞が1つずつ成熟し、およそ28日周期で排卵される。
PCOSの人:
卵細胞が成熟し、ある程度の大きさにはなるが、そのまま卵巣に残り、小さな嚢胞を形成する。このプロセスを毎月繰り返し、時間の経過と共に数十の嚢胞が形成される。
不妊症の主要な原因の一つであり、少なくとも米国では、妊娠可能年齢の女性の約10%~20%がPCOSを有していると推定される。
※PCOSは「病気」というよりも、一連の「病的な状態」を指すイメージ。
・主な症状
1.不規則な月経
2.不妊
3.にきび
4.余分な体毛(ヒゲとか)
5.肥満
・診断基準
ロッテルダムのコンセンサスでは、以下の3つのうち、少なくとも2つを満たすもの。
1.不規則な月経
2.高アンドロゲン症 (アンドロゲン:男性ホルモンのこと)
3.超音波で確認された多発性嚢胞卵巣
※ほとんどの場合、血液検査で高アンドロゲン症が見られる。
・他の病気の罹患リスク
PCOSを有する女性は、以下を含む多くの疾患および健康状態のリスクが増大する。
1.2型糖尿病
2.冠動脈疾患(CAD)
3.非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)
4.高血圧
5.閉塞性睡眠時無呼吸
※ほぼ全て高血糖・高インスリン・肥満に関連する疾病。
◆原因と悪循環
・ホルモン異常
黄体形成ホルモン(LH)が多すぎ、卵胞刺激ホルモン(FSH)が不十分。
高レベルのLHは、排卵を抑制する過剰なアンドロゲン(男性ホルモン、テストステロンを含む)の産生を刺激する。
→つまり、排卵されない
性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルが低く、遊離テストステロンが上昇している。
排卵を妨げることに加えて、高レベルの遊離テストステロンは、男性化の症状を引き起こす可能性がある。
→つまり、ヒゲとか生えてくる
そして、低レベルのSHBGはインスリン抵抗性を促進する。(逆もまた同様)
→つまり、デブる
・インスリン抵抗性
①メタボリックシンドロームまたは2型糖尿病に起因するインスリン抵抗性により、余分な脂肪が蓄積される。
↓
②余分な脂肪が更なるインスリン抵抗性、炎症を引き起こし、アンドロゲン産生を刺激する。
↓
③高レベルの遊離テストステロンおよび低レベルのSHBGが、インスリン抵抗性および脂肪の蓄積を促進する。
↓
①に戻る
※つまり、悪循環。
・メタボリックシンドローム
以下の5つの基準のうち、少なくとも3つを満たすことによって正式に診断されます。
1.ウエストが89cm以上 (女性の場合)
2.高トリグリセリド (150mg/dL)
3.低HDLコレステロール (50mg/dL以下)
4.高血圧 (130/85mmHg以上)
5.空腹時の高血糖値 (100mg/dL以上)
※少なくとも米国では、PCOSの女性の約80%が太りすぎまたは肥満である。
※PCOS患者のある研究では、43%がメタボリックシンドロームの診断基準を満たしていた。
・えーと、つまり…?
肥満はインスリン抵抗性とホルモンの不均衡を永続させる。
つまり、肥満が原因の起点であり、デスクワークしながらパンとかお菓子をムシャムシャしてると余計に酷くなるよってこと。
所感:
白人は、日本人に比べてインスリン抵抗性型の2型糖尿病になりやすいので、心臓病や高コレステロール血症、そしてPCOSなど関連疾病にかかりやすいのかな?
日本人の場合、膵臓が貧弱で膵臓過労死型の2型糖尿病になって死んじゃうので、罹患率がそこまで多くないのかも。
◆糖質制限食によるメリット
ぶっちゃけ減量ができれば何食っても良いのでは?と思うかも知れませんが、糖質制限食には以下の多くのメリットがあります。
・減量食としての側面
1.血糖値の乱降下が無くなり、異常な空腹感から解放される。
2.糖質依存症を治すことにより、穀物や砂糖菓子への欲求が無くなる。
3.脂質代謝状態を維持する事で、身体が脂肪をメインエネルギーとして使うようになる。
4.脂質代謝状態では、血糖値のベースライン維持のため、肝臓でブドウ糖を合成するようになり、大量のATP(エネルギー)を使うようになる。
5.低インスリン状態を維持することになり、体脂肪の分解は促進され、合成が抑制される。
・栄養/代謝改善としての側面
1.主な糖質制限OK食材である肉・魚・卵・バターや生クリーム・ナッツ類は、野菜よりもビタミン・ミネラルが豊富である。
2.高脂質食は、ホルモンの原料であるコレステロールを積極的に摂る事ができる。
3.糖質(特に果糖)をカットすることで、体内の炎症反応や酸化ストレスを抑制することができる。(≒アンチエイジング)
4.魚油(オメガ3)は体内の炎症反応を抑制し、インスリン感受性を改善する。
5.オートファジーが活発になり、古い細胞が分解されやすくなる。(≒デトックス)
6.低インスリン状態では塩分と水分の排泄が促進される。(≒高血圧が改善する)
・継続性としての側面
1.厳密なカロリー制限が必要無いので、空腹に耐える必要が無い。
2.肉・魚・卵・チーズ・バター・ナッツ・Avocadoなど、食材のバリエーションが豊富。
3.そもそも脂質は腹持ちが良いので、満腹感が長時間持続する。(長鎖脂肪酸は吸収・代謝に最長10時間かかる)
4.変なお菓子やジュースを買い込む必要は無くなり、卵や豚バラ、ひき肉、魚の缶詰など高脂質なお手頃価格食材は多いので、さほど食費がかからない。
・QOL向上としての側面
1.血糖値の乱降下が無くなることで、食後の眠気が改善される。
2.糖質代謝特有の「小腹が空いた」感覚が無くなり、長時間仕事に集中できる。
3.肌・髪・体型が改善することにより、異性からの評価が大きく変わる。
4.「焼肉食べ放題ライス抜き!」が可能。すごくない?
え?友達と一緒にパンケーキ食べに行きたい?
まぁ月に1回くらいなら大丈夫だよ。
◆研究と治療事例
・ジャクソンビルの妊娠専門医(フロリダ州の生殖医療センター)
Michael Fox博士は、糖質制限食によるPCOS治療を行っており、17年の経験を持つベテラン医師。曰く、
「PCOS患者に糖質制限食を与える事によって、妊娠の可能性が45%から90%に上昇しました」
「炭水化物を20グラム未満にカットし、脂肪を75%に増やし、食事の内容を改善することで、妊娠の可能性が増し、にきびや体重増加などの悲惨な症状が大幅に改善されます」
・2005年の小規模な研究
PCOSの女性11人が、ケトン生成低炭水化物食(≒糖質制限食)を6ヶ月間続けた。
研究を完了した5人の女性は、体重、ホルモン状態、および体毛の知覚量が大幅に改善した。
不妊症の問題にもかかわらず、研究中に2人が妊娠した。
・2013年の調査
炭水化物(総エネルギーの55%→41%)の非常に緩やかな減少でさえ、PCOSを有する女性の体重、ホルモンおよび危険因子が有意に改善されることが示された。
・2015年の研究
24人の女性が1日あたり約70グラムの炭水化物を含む低澱粉、低乳製品の食事を行った。
8週間後、インシュリンレベル、遊離テストステロンレベル、インスリン抵抗性、トリグリセリドが大幅に減少し、平均体重が19ポンド(8.6kg)減少した。研究中に1人の女性が妊娠した。
◆運動
・筋力トレーニング
4週間の試験で、筋力トレーニングを週3回実施すると、PCOSの女性のアンドロゲンおよびSHBG(性ホルモン結合グロブリン)および体重の低下に繋がった。
・有酸素運動
有酸素運動は、PCOS患者の炎症を軽減し、インスリン抵抗性を低下させ、体重減少を促進し、生殖機能を改善するのに役立つことが示されている。
ある研究では、12週間有酸素運動を行った無月経女性の56%が再び月経を開始しました。
◆で、具体的にどうするのか?
・低糖質/中蛋白/高脂質
1日の糖質摂取量を20g以下にし、カロリーの75%以上を脂質から摂るようにして下さい。
一般的なKetogenicDietのPFCマクロは以下の通りです。
糖質:5%以下
蛋白質:20%以下
脂質:75%以上
※カロリー制限をする必要は無し。困った時は卵と魚を食え!
※いきなり糖質20g以下にチャレンジしても良いし、「まずは半分、それができたらもう半分」とStep by Stepで実施しても良いです。
・具体例①
PCOSの諸症状を克服したRachel Austさんのマクロは以下の通りです。
糖質:3%
蛋白質:15%
脂質:82%
※カロリーは一切制限せず、むしろ筋肉量維持のため、1日3,000kcal食べる日もあるとの事です。
・具体例②
PCOSとは何ら関係が無いけれど、Kom者の最近のマクロは以下の通りです。
糖質:1~3%
蛋白質:16~22%
脂質:74~82%
※1日の摂取カロリーはだいたい2,400~3,500kcalくらいです。
※「初心者向け食材選びガイド」とか参考にしてみて下さい。
・筋トレ
無理せず、可能な範囲で取り入れていきましょう。
有酸素運動ばかり行うと筋肉が擦り減ってしまうので、筋トレ中心が良いです。
まずは週1回、15分の自宅筋トレから始めてみましょう。
・サプリメント?
マルチビタミンや魚油(オメガ3)を摂る人が多いです。
シナモンやリンゴ酢を摂る人もいるようです。
…が、これらは必須ではないので、優先順位としては低い方です。
むしろ「サプリメントなんて必要ない」くらい普段の食事を充実させる事が必要です。
補足事項:
Ketogenic食は、厳密には糖質制限食とイコールではありませんが、一般人から見ればどちらも大差無いので、適時「糖質制限食」の呼称に置き換えています。
以下、参考文献です。
◆医師や栄養士の記事
ケトジェニックダイエットとPCOS
多嚢胞性卵巣症候群のための低炭水化物食を採用する上位8つの理由
低炭水化物食でPCOSを治す方法
◆ジャクソンビル生殖医療センター
PCOSがインスリンおよび糖質代謝に関連する代謝障害であることに言及。
治療にあたり、栄養面での指導を強く推していくことが記されており、このアプローチにより妊娠率は倍以上になったとの事。
「病状がPCOSのみである場合、もはやIVF(体外受精)を行うことはほとんど無い」との事。
◆文献(NCBI)
多嚢胞性卵巣症候群に対する低炭水化物食の効果:パイロット研究
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関連した肥満および共存症の治療に成功した低デンプン/低乳製品の食事
PCOSを有する女性の体組成および脂肪分布に対する正常カロリーの低炭水化物食の影響
◆VLOG(Youtube)
PCOSとの闘い:Rachel Aust
2016/08/30~2017/08/31で空腹時血糖値・インスリン値・コルチゾール値が大幅改善。
テストステロン値とコレステロール値も適正範囲になっている。
◆日本の医師
国内では江部先生が一番詳しい。
江部先生のブログ内での、PCOSに関する記事。
江部先生の記事・書籍は基本的にガチ医学ベースなので、難しいですがその分詳細に理解できます。
産婦人科であれば、宗田先生が一番詳しい。
世界初の論文である「赤さんは糖質制限で生きている(意訳)」を書いたのもこの方。
「文献とかよく分かんねぇよ、漫画で教えてくれよ」なら、ゆうきゆう先生。
漫画なのですげぇざっくりしてますが、その分非常に分かりやすいです。