中鎖脂肪酸の特性・利点・運用方法
ココナッツオイルやMCTオイルなどに含まれる中鎖脂肪酸は、炭水化物に代わる即効性のエネルギー源として活用できるだけでなく、減量効果、そして抗菌作用などの健康面でも嬉しいメリットが多々存在します。
今回の記事では、それら中鎖脂肪酸の特性・利点・運用方法などをご紹介します。
◆1.脂肪酸についてのおさらい
①短鎖脂肪酸
C(炭素)の数が5個以下のもの。
食品中には殆ど含まれておらず、食物繊維等を原料にして大腸の腸内細菌によって生産される。
大腸のエネルギー源として利用されるだけでなく、腸内を弱酸性に保つことで悪玉菌を抑えたり、カルシウム・マグネシウム・鉄などのミネラル吸収を促進する。
②中鎖脂肪酸
C(炭素)の数が6個~12個のもの。
吸収・代謝が非常に早く、体脂肪になりにくい脂肪と言われる。
強い抗菌力・抗炎症力を持ち、腸内細菌の正常化にも寄与する。
ココナッツオイルやMCTオイル、パームオイルなどの一部の油脂製品に存在する。
③長鎖脂肪酸
C(炭素)の数が13個以上のもの。
吸収・代謝が非常に遅く、完全に代謝されるまで最長10時間~12時間を要する。
リノール酸のように摂りすぎると炎症を増やしてしまうものや、DHAやEPAのように健康増進に高い効果を持つものなど様々。
バターやオリーブオイル、肉や魚や卵の脂質など、殆どの油脂製品・脂肪を含む食べ物の脂質は、この長鎖脂肪酸に分類される。
※今回の記事は「②中鎖脂肪酸」についてのお話です。
◆2.中鎖脂肪酸の吸収/代謝プロセス
<中鎖脂肪酸の場合>
・食べた中鎖脂肪酸が胃、そして小腸に到達
↓
・小腸から門脈を経由して速やかに肝臓に到達する
↓
・肝臓から血流に乗って全身の臓器/細胞に届けられる
↓
(中鎖脂肪酸が細胞に到着する)
↓
・中鎖脂肪酸がミトコンドリア内に輸送される
↓
・ミトコンドリア内でATP(エネルギー)を作る
<長鎖脂肪酸の場合>
・食べた中鎖脂肪酸が胃、そして小腸に到達
↓
・小腸からリンパ管を経由してゆっくりと血流に乗る
↓
・血流に乗って全身の臓器/細胞に届けられる
↓
(長鎖脂肪酸が細胞に到着する)
↓
・長鎖脂肪酸がLカルニチンと結合し、ミトコンドリア内に輸送される
↓
・ミトコンドリア内でATP(エネルギー)を作る
つまり、中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸の主な違いは以下の2点になります。
①吸収経路の違い(門脈経由か、リンパ管経由か)
②代謝時のLカルニチンの必要性
これにより、中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸に比べて非常に速い代謝スピードを持っています。
◆3.中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸の代謝速度
出展:Furman. R.H. Medium Chain Triglycerides, University Pa press(1968)
中鎖脂肪酸はおよそ3時間後に高いピークが発生しているのに対し、長鎖脂肪酸はおよそ5時間後に低いピークがあり、その後長時間に渡りエネルギー供給が持続します。
即ち、中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸は、それぞれ相反する性質を持っています。
種類 | 吸収/代謝 | ピークレベル | 持続性 |
中鎖脂肪酸 | 速い | 高い | 短時間消費 |
長鎖脂肪酸 | 遅い | 低い | 長時間持続 |
◆4.中鎖脂肪酸の脂肪酸
中鎖脂肪酸にカテゴライズされる脂肪酸は、C6~C12となります。
それぞれ特性が異なりますが、もっぱらC8とC10、またはC12の脂肪酸に重きが置かれます。
①C6(カプロン酸)
極めて速い吸収・代謝力を持つが、その不快な味および臭いのため、通常は含まれていない。
製品としてのMCTオイル精製中に、ほぼ完全に除去される。
②C8(カプリル酸)
ヤシ油に含まれる中鎖脂肪酸の12%を占める。
吸収・代謝が非常に早いだけでなく、腸の健康維持に役立つ強い抗菌特性・抗炎症作用を有することが知られている。
③C10(カプリン酸)
ヤシ油に含まれる中鎖脂肪酸の10%を占める。
特性はC8とほぼ同じだが、C(炭素)の数が多いため、C8よりも少し遅く処理される。
抗真菌力が強く、免疫力を高めることができる。
④C12(ラウリン酸)
ココナッツオイルに多く含まれる脂肪酸。
C(炭素)の数が多いため吸収・代謝がC8・C10に比べて遅く、C12を長鎖脂肪酸にカテゴライズする研究者も居る。
しかしながら、C12は極めて強い抗菌力を持ち、それはC8・C10よりも強い。
ココナッツオイルはC12の含有量が多いので、抗菌力を求める場合はココナッツオイルを選択される方が良いでしょう。
製品としてのMCTオイルはC8とC10で構成されているものが一般的なので、減量および速やかなエネルギー補給を優先する場合はMCTオイルを選択される方が良いでしょう。
◆5.中鎖脂肪酸の利点
①即効性のエネルギー源
代謝経路の違いにより、中鎖脂肪酸は凄まじく速い吸収・代謝速度を持っており、炭水化物に代わる即効性のエネルギー源としてあなたの糖質制限ライフをサポートします。
具体的には、飲んでからわずか15分でエネルギーになり始め、空腹感が消し飛びます!(実体験)
②低カロリーである
長鎖脂肪酸:1gあたり9.2kcal
中鎖脂肪酸:1gあたり8.4kcal
※塵も積もれば山となる
③体脂肪として蓄積されにくい
中鎖脂肪酸は素早くエネルギーとして利用され、中性脂肪として貯蓄されにくい脂質です。
論文によれば、MCTオイルを摂取した被験者は、オリーブオイルを摂取した被験者と比べて多くの体脂肪を喪失したとの事であり、中鎖脂肪酸が体脂肪として合成されにくい脂肪酸である事を示しています。
※食事誘発性熱産生も、長鎖脂肪酸よりも中鎖脂肪酸の方が大きかったとの事です。
④腸内細菌の最適化
C8、C10、C12はいずれも強力な抗菌力を持っており、腸内環境の最適化に貢献します。
腸の健康は身体の健康です。病気知らずの身体を作るため「腸活」をしましょう!
⑤脳に効く
中鎖脂肪酸はケトン生成を補助し、ケトンはブドウ糖よりも脳のエネルギー源として効率良く利用されます。
認知症・パーキンソン病・てんかん・脳腫瘍・そして自閉症などの疾患に対しても有効です。
◆6.中鎖脂肪酸のリスク
以下が中鎖脂肪酸摂取時のリスクです。
ほとんどリスクらしいリスクはありませんが、頭の片隅に留めておくと良いと思います。
①一度に多量摂取するとお腹が痛くなる
最初は1度に5cc程度から始め、慣れてきたら1度に15cc程度摂ることができます。
②食物アレルギーを引き起こす事がある(かも知れない)
マウスの研究レベルですが、Th2応答を刺激することで食物アレルギーを促進し得ることがあったそうです。
とはいえ、中鎖脂肪酸は40年以上前から医療・介護の分野で利用されていますが、中鎖脂肪酸を摂取して新しい食物アレルギーを発症したという報告は無いようです。
※Th1/Th2…免疫細胞の2つの種類のこと。
MCTオイルはほとんどの人にとって安全ですが、明確な投与量ガイドラインはありません。
少量で始め、徐々に摂取量を増やしてください。
また、投薬やその他の重篤な副作用との有害な相互作用は報告されていません。
◆7.中鎖脂肪酸の製品
主にココナッツオイル系と、MCTオイル系に分かれると思います。
健康面や美味しい風味を求める場合はココナッツオイルを、減量や即効性のエネルギー源を求める場合はMCTオイルを選択されると良いと思います。
(私は両方使っています)
・Artisana, オーガニック ココナッツオイル
米国農務省認定のオーガニック、かつ遺伝子組み換えでない製品。
甘くて良い匂いがするので、これでオムレツを作るとキッチンが南国の香りで包まれます。
・Now Foods, ピュアMCTオイル
最高のコストパフォーマンスを誇るMCTオイル。とにかく安い。
プラ容器ではなく瓶入りなのも高評価。でもたまに異臭がするものが混じってるんだけど……。
・Now Foods, MCTオイル, ソフトジェル150粒
サプリメントタイプのMCTオイル。
コスパは悪いが、液状ではないので持ち運びがしやすい。
トレーニング前のエネルギー補給に最適。
・仙台勝山館:MCTオイル
由緒正しき国産のMCTオイル。C8(カプリル酸)とC10(カプリン酸)のみを使用したこだわりの品質。
海外産に比べて少し高いが、品質重視ならこちらがお勧め。
・日清オイリオ:MCTオイル
こちらも由緒正しき国産のMCTオイル。全国の食料品店やAmazonで購入することができます。
こちらも海外産に比べて少し高い。
※日清オイリオからMCTパウダーが発売されていますが、これは糖質を多く含んでいますので、糖質セイゲニストの方は購入してはいけません。
※プラ容器のMCTオイルは非常に安いですが、内分泌撹乱物質が溶け出すリスクがあるため、お勧めできません。
◆8.実際の運用方法
①料理やサラダにかける
無味無臭なので、ほぼどのような料理にも合います。
炒め物やサラダ、あるいは汁物や和え物に混ぜると食べやすいです。
②プロテインや青汁、スムージーに混ぜる
トレーニング前/後のプロテインに混ぜて飲み、運動中のエネルギー補給、筋肉の回復力アップに貢献できます。
毎朝スムージーを作っている方であれば、それにプラスすることもできます。
③加熱調理油の代わりとして
酸化に強い油なので、加熱調理にも使用することができます。
ただし発煙点が160℃と低いため、揚げ物には使用しないで下さい。
④オリジナルドレッシングとして
MCTオイル+EXVオリーブオイル+レモン汁+酢+塩で素敵なサラダをお楽しみ下さい!
⑤MCTオイルコーヒーとして
Kom者の場合、冬場はMCTオイルコーヒーとして毎日飲んでいます。
⑥そのまま飲む
Kom者の場合、夏場は(暑いので)MCTオイルコーヒーをあまり飲まないため、朝食時に10cc程度そのまま飲んでいます。
◆まとめ
中鎖脂肪酸オイルは、減量・健康増進のための切り札……とまでは言えませんが、数多くの面でメリットをもたらします。
食欲を抑制し、強い抗菌作用があり、身体に即効性のエネルギーを供給し、それでいて体脂肪になりにくい。
今まで使用していた油脂と入れ替え、素敵なオイルを毎日の食事に取り入れてみて下さい!
以下、参考記事です。
◆参考記事
日清オイリオ:そもそも「MCT」ってなに?
プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果
ケトン体・ケトン食とは
カルニチンとは
MCTオイル:利点、リスク、および使用方法
MCTオイル:それは脂肪を燃やす究極の方法ですか?
6つのMCTオイルの健康上の利点 - ココナッツオイルよりも優れていますか?
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