理想の身体はキッチンで作る。

糖質制限批判記事に振り回されないための3つのポイント

日本以外の医学界では既に決着はついており、日本でも「なんだか糖質を控えたほうがヤセるし健康になるらしい」と徐々に世論が変わっていく中、依然としてTVや雑誌やニュースサイト等でお粗末な批判記事が跳梁跋扈しています。
今回は、そういった不老不死の妖怪じみた記事を軽快に切り伏せるための、最も重要な3つの観点について解説したいと思います。


◆観点1「脳のエネルギー源はブドウ糖だけ」ではない
●まず結論
脳はエネルギー源としてケトン体を利用する事ができます。(むしろブドウ糖よりもケトンを好みます)
これは単なる生理学的事実ですので、これに異を唱える方は単なる勉強不足か、あるいはポジショントークであると思われます。

【以下解説】
脳組織は神経細胞(ニューロン)と、神経膠細胞(グリア細胞)がありますが、重要なのはニューロンに対するエネルギー供給となります。
ニューロンのネットワークと電気信号のやり取りによって、人は思考をすることができます。

●ブドウ糖の利用
ブドウ糖
グリア細胞がブドウ糖から乳酸に変換(解糖系)
ニューロンの乳酸トランスポーターによって乳酸をミトコンドリア内に取り込む
乳酸をピルビン酸に変換
ピルビン酸をアセチルCoAに変換
TCA回路をスタート
ATP産生

●ケトン体の利用
ケトン体
ニューロンがケトン体をミトコンドリア内に取り込む
ケトン体からアセチルCoAに変換
TCA回路をスタート
ATP産生

つまり、「脳がブドウ糖を使う」と言っても、結局はブドウ糖→乳酸→ピルビン酸→アセチルCoAに変換してミトコンドリア代謝を行っています。

脳は、心臓と同じく24時間休み無しで稼働する組織なので、解糖系よりもミトコンドリア代謝による持続的エネルギー源をメインにするほうが効率的です。
ミトコンドリア代謝をメインにするという事は、「大量に貯め込んでいる脂肪をメインエネルギーとして利用する」という事なのです。
事実、心筋もニューロンもミトコンドリアが大量に存在し、持続的エネルギーを産生するのに長けています。

従って、脳も心臓も、糖よりも脂肪を好む……という事になります。


●余談
大量のブドウ糖はグリア細胞にて代謝されます。
大量の糖代謝は細胞の癌化を促進させます。
脳腫瘍はグリア細胞が癌化したものです。
※ニューロン自体は細胞分裂しないため、癌化しません。




◆観点2「糖新生で筋肉が減少する」わけではない
●まず結論
糖新生には3つの経路があり、蛋白質(糖原生アミノ酸)、脂肪(グリセロール)、乳酸の3つが原料になります。
また、糖原生アミノ酸が使用される場合でもいきなり筋肉が溶かされるわけではなく、まず体内のアミノ酸プール内のアミノ酸が使われます。
本件は栄養学・生化学の基本事項なので、ご存じない方は単なる勉強不足だと思われます。

【以下解説】
赤血球はミトコンドリアを持たないため、グルコース(ブドウ糖)しか利用できません。
このため、血糖を一定値に保つためだけに、糖質摂取が無くても体内で糖を生産する経路が3系統用意されています。

●経路1:糖原生アミノ酸(グルコース-アラニン回路)
糖原生アミノ酸(アラニン・グリシン・セリン…等)
ピルビン酸
アラニン(肝臓に輸送)
ピルビン酸
グルコース

●経路2:乳酸(コリ回路)
乳酸(肝臓に輸送)
ピルビン酸
オキサロ酢酸(ミトコンドリア内)
リンゴ酸(ミトコンドリア内膜通過のため)
オキサロ酢酸(ミトコンドリア外)
ホスホエノールピルビン酸
フルクトース-1,6-ビスリン酸
フルクトース-6-リン酸
グルコース-6-リン酸
グルコース

●経路3:グリセロール
グリセロール(肝臓に輸送)
グリセロール3-リン酸
ジヒドロアセトンリン酸
グルコース


糖質制限中に筋肉量が減少する場合は、低カロリー食になっている場合がほとんどです。
脂身のある肉、脂身のある魚(特に青魚)、全卵、またはオリーブオイル・ココナッツオイル・アーモンド・アボカド等の健康的な油脂を積極的に摂りましょう。
※糖質があろうが無かろうが、運動不足や低カロリー状態が続くと筋肉は減少します。




◆観点3「糖質制限で○○○に!」という脅し文句
○○○には色々な言葉が入ります。
腎臓病、肝臓病、動脈硬化、老化促進、アルツハイマー、痛風、脳梗塞、逆に太る、死亡率上昇……etc.
研究の一部を曲解したり、エビデンスレベルの低い論文を持ってきたり、受け手に知識が無い事をイイ事にわざと危機感を煽るような、売上とPVを伸ばす事だけが第一で情報の真偽などどうでも良いと考えているマスゴミならではの極めて悪質な文脈だと思います。

【以下解説】
もちろんそんなコトにはなりませんのでご安心下さい。
詳細に解説すると難読になってしまうので、1個ずつ簡単に解説していきたいと思います。


●「高蛋白食で腎臓に負担が!」とかなんとか
①健常者に蛋白質制限は必要ない。
そもそも健常者に蛋白質制限が必要ありません。
腎臓病患者であっても、軽度であれば蛋白質制限は必要ありません。

②蛋白食摂取量はせいぜい1日あたり体重×2.0g程度である。
Ketogenic(糖質5%・蛋白質20%・脂質75%)はもちろん、スーパー糖質制限食(糖質12%・蛋白質32%・脂質56%)でも、パーセンテージが示す通り、どちらかというとカロリーの大半は「健康的な脂質」から摂ります。
サラダチキンをひたすら食べまくる食事ではないのです。
なお、体重×2.0gの蛋白質(成人男性なら120g/日)は「筋トレしているなら最低でもこの量は摂れ」というレベルですので、健康面で不利益な事が発生する可能性はほぼゼロです。

③赤身の肉由来の蛋白質はわずかに影響あり?
最近の論文ですが、卵・魚・乳製品・白身の肉由来の蛋白質は影響無いが、赤身の肉由来の蛋白質は腎臓に影響を与える研究結果が出たそうです。
とはいえ、毎日牛肉だけを食べ続ける人は居ないと思うので、気にする必要は無いと思います。(プロテインは牛乳由来なので、沢山摂っても影響はなさそうです)

④糖尿病予防は腎臓病予防にもつながる
糖尿病は「全身血管ボロボロ病」であり、合併症は「末端の血管から壊死する」症状です。
腎臓は毛細血管が密集している臓器なので、糖尿病のリスクを上げる事は、そのまま腎臓病のリスクにも繋がります。
事実、糖尿病性腎症は全腎臓病患者の40%を超えるので、糖尿病を予防することは腎臓病を予防することにも繋がります。

※既に腎不全レベルの重度腎臓病患者の方は蛋白質制限が必要になるので、糖質制限食はNGとなります。



●「糖新生は肝臓に負担が!」とかなんとか
①糖新生は特別な働きではない
長時間の絶食時(昼飯抜いた時や、夜寝てる間など)には、肝臓で糖新生が働いています。
糖新生そのものは特別でも何でもなく、血糖維持のため毎時少量のブドウ糖(4g~6g/h程度)を合成するだけなので、特に肝臓に負担がかかるわけではありません。

②高糖質食のほうが負担が大きい
高濃度の血糖は人体にとって害になるため、速やかに処理する必要があります。
このとき、追加インスリンを大量に分泌させるため、膵臓が全力運転します。
1日に何度も全力運転を行い、それを長い間続けた結果、膵臓が過労死状態になってしまう事を「2型糖尿病」と言います。
※低GI食が2型糖尿病予防に効果があるのはこのため。

③精製糖質により非アルコール性脂肪肝になる
特に砂糖による害悪が顕著です。
たとえ低脂肪食をしていたとしても、毎日運動をしていたとしても、砂糖菓子や砂糖飲料を取り続ける事で脂肪肝になります。
脂肪肝は、脂肪肝→肝硬変→肝臓癌と発展します。ご注意下さい。

※重度の肝臓病患者さんの場合、肝臓でうまく糖新生が行えませんので、糖質制限食はNGとなります。



●「悪玉コレステロールが!」とかなんとか
①コレステロールに悪玉も善玉も無い
HDL:肝臓に戻ってくるコレステロール
LDL:肝臓から出発するコレステロール
コレステロールの実体は「リポタンパク質」と言って、「脂質を輸送するためのトラック」です。(血液は水で出来ているので、そのままだと輸送できない)
近年の研究では、悪さをするのはLDLではなくその中の一部である小粒子LDLであり、そしてそれ以上に、血管に損傷を与えないような食生活(つまり低糖質食)が重要である……という見識が一般的です。

②コレステロール摂取上限は撤廃されている
食事から摂取するコレステロールと、血中コレステロール値は相関がありません。
既に米国でも日本でも、コレステロール摂取上限値は撤廃されています。

③コレステロールは人体に必要な物質
ホルモンの材料はコレステロールですし、血管の修復にもコレステロールは使用されます。
身体に必要な物質なので、足りなくなった場合、肝臓で生産されます。



●「マウスの実験で老化促進に!」とかなんとか
①動物実験の結果はヒトには当てはまらない
ヒトに対する研究を行うための予備実験として、動物実験を行います。
動物実験の結果をヒトのエビデンスとして扱うことはできません。(当然ですが)
従って、動物実験の結果をそのまま引用して、ヒトに対する栄養摂取量が決定される事は絶対にありません。

②食性が違うものを食べさせると調子が悪くなる
草食:マウス・ウサギ・牛・ゴリラ等…
肉食:犬・猫・ライオン等…
ウサギに牛肉を食べさせる事はしませんし、犬に干し草を与える事もしないはずです。
人間の食性は肉食ベースなので、動物実験で糖質制限食をさせるなら、猫に魚を食べさせるような実験をしないといけませんね。

③むしろ若返ります
精製糖質をカットすることによる細胞の酸化防止、AGEs生成抑止。
緑色の野菜に含まれる大量の抗酸化成分。そして積極的な蛋白質摂取と、健康的な油脂類によって、髪・肌・内臓の健全性が保たれます。
実際にやった人は、その効果を体験していると思います。

※余談(食性について):
安物のキャットフードは穀物を混ぜてかさ増しをしているそうです。
本来の食性ではない穀物を食べさせる事で、愛猫の健康を害することがあります。ご注意下さい。



●「低血糖でアルツハイマーに!」とかなんとか
①高糖質食でアルツハイマーのリスクが上昇します
追跡率99%の前向きコホート研究である「久山町研究」でも明らかになっている通り、カロリー控えめ穀物野菜中心の伝統的な日本食(糖質60%・蛋白質15%・脂質25%・1日1800kcal)を14年間食べ続けた結果、肥満・糖尿病・脂質異常症・アルツハイマー症は減るどころかむしろ激増したという結果が出ています。
日本のみならず、諸外国でも同様の大規模疫学的研究がなされており、同様の結果が出ています。

②糖質制限食で低血糖は起きない
追加インスリン分泌による血糖値の乱降下が発生しないので、糖質制限食で低血糖に陥る事はありません。
食事から一切の糖質摂取が無い状態でも、糖新生により蛋白質・脂質・あるいは乳酸からブドウ糖が作られ、血糖は常に一定値が保たれます。
※血糖を下げるホルモンはインスリンだけであり、糖質制限食では追加インスリンの分泌が少量またはゼロで済みます。



●「尿酸値が上がって痛風になる!」とかなんとか
①食べ物の影響は20%
そもそも尿酸の80%は体内で作られます。
食べ物の影響は20%くらいです。

②水分不足やストレス
水分不足で排泄が滞っていたり、高ストレス状態が続くと尿酸値があがります。
糖質制限食をしていて尿酸値が上がる場合、だいたい低カロリー食(≒高ストレス状態)になっている場合が多いです。



●「私はこれで脳梗塞になりかけた!」という人
2年間頻繁にトンカツを食べ続け、お酒も飲まれていたそうです。
糖質+酸化した油+アルコールという最悪のコンボですね。
なぜそれを続けて大丈夫だと思ったのか…。

ちなみにこの方は、中性脂肪が高値で、HDLコレステロールが低値だったそうです。
正しい糖質制限食をすると、だいたい中性脂肪は正常低値になり、HDLコレステロールは増加します。(私もそうなりました)
※数字はウソつかない。



●「極端なダイエットでリバウンドが!」とかなんとか
これまた有名なエビデンスがあります。
「低炭水化物食と地中海食は,いずれも低脂肪食を超える減量効果(DIRECT試験)」
【要約】
①低脂肪食(カロリー制限あり)
②地中海食(カロリー制限あり)
③低炭水化物食(カロリー制限なし)
2年間追跡した結果、最も体重減少量が多かったのは低炭水化物食。
2年後の体重減少量が最も多いのも低炭水化物食。

全文はこちら↓
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18635428

江部先生のブログで解説有り↓
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4454.html

※低炭水化物食(糖質制限食)は腹持ちが良いので、そもそも食べ過ぎ防止に繋がり、空腹感からの糖質ボンバーに連鎖しにくいのだと思います。
※地中海料理は糖質制限食と似ている部分が多いので、私の中ではほぼイコールです。

※余談:
地中海食というのは、新鮮な魚介類・緑黄色野菜・ナッツ類・豆類、そして上等なオリーブオイルをたっぷり使った食事のことです。
古来より地中海沿岸の人々は長寿の人が多く、脳卒中や心臓病患者も非常に少ないことで有名です。
もし南イタリア、ギリシャ、そしてスペインあたりに行かれる際は、上等なオリーブオイルをたっぷり使った魚介料理を楽しむことをお勧めします。



●「糖質制限で死亡率上昇!」とかなんとか
逆です。
「炭水化物の摂取増加で死亡リスク上昇」という内容のランセットの論文があります。
5大陸18カ国で35~70歳の13万5335例を約7年半追跡し、全死亡および心血管疾患への食事の影響を検証した大規模疫学前向きコホート研究です。
【要約】
①炭水化物摂取量の多さは全死亡リスク上昇と関連
②総脂質および脂質の種類別の摂取は全死亡リスクの低下と関連
③総脂質および脂質の種類は、心血管疾患(CVD)、心筋梗塞、CVD死と関連していない
④飽和脂肪酸は脳卒中と逆相関している

全文はこちら↓
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32252-3/fulltext

江部先生のブログで解説あり↓
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4346.html

※栄養過剰の傾向にある欧米だけを対象としているのではなく、低所得、中所得、高所得の18カ国を網羅している。
※海外の医師の視点は「低炭水化物食についての論争は既に決着が付いており、あとは現場レベルでどう導入していくか」という次元になっています。




◆結論:大切な事は自分で学ぶ
TVや雑誌はもちろん、最近ではWebサイトもキュレーションメディア問題によって情報汚染が酷い有様です。
もう既存のメディアにはあんまり目を向けないようにし、自分でコツコツと勉強&実践されたほうが良いと思います。

お金でも健康でも人間関係でも、本当に大切な事は人は教えてくれません。

なお、糖質制限食について正しく勉強を続けると…
①糖尿病予防
②地中海料理
③ボディビル
…のどれかに辿り着くと思います。


ちなみに私の場合、3つ全てに辿り着きました(*'ω'*)



拍手[2回]